2021-01-04

旅にスパイス②インタビュー 真砂秀朗(アーティスト&ミュージシャン/葉山)

クリエイティブな縄文性の時代へ 

葉山森戸海岸のほど近くにフランクロイドライトの愛弟子の遠藤新が手がけた築80 年の日本家屋があります。一昨年、そこをアトリエにリノベーションし、サロン&ギャ ラリー「明風」を展開しているアーティストの真砂秀朗さんを訪ねました。真砂さんは、ペトログリフがアートの原点であると語ります。真砂さんの手がける芸術は、日本人の魂に直接語りかけ、コロナ時代の私たちの不安な暮らしに直接問いかけます。

インディアンフルートに 魅せられて

1月23日に「祈り」というCDをリリ ースいたします。世界中がコロナ禍でロ ックダウンする中で、社会の行き詰まりや混沌が可視化され始めて、孤独と不安 の中で私たちの心が欲するものは何かと問うてみたかったのです。楽器のルーツ は、素朴で人間的な倍音が活きる民族楽 器です。インディアンフルートは、音色 は小さくとも、人の心の琴線に直接ささ やきかける道具です。音量や音域を増す ために進化した楽器よりも優しい響きで 心にしみていきます。特にインディアン フルートは、ラヴフルートとも呼ばれ、 インディアンの求愛のための楽器でもあ ったのです。コロナの時代に必要なのは、 共振する私たちの心なのではとこのCD で問いかけています。

新作のCD INORI

自然とのシンクロが生む豊かさ

アーティストとして私が伝えたいこと、それは豊かさの本質です。私たち日本人 の血に流れる縄文性について、農的な感性は本能として心地よいものです。水の きらめきや風のそよぎ、土に触れて心地 よいのは、私たちが縄文から受け継いで きたものだからです。創作し表すことを 芸術と捉え表現していくことは、縄文 人も我々も何ら変わらない日常なので す。土器に見られる縄目文様の豊かな表 現力は、私たちの持つ感覚よりもはるか に自由で自然と一体です。森羅万象を歌 い、自然とシンクロする農をアートする ことから私たちの文明は始まったのです。 谷戸の「縄文たんぼ」を始めてから20 年、風のそよぎや鳥たちのさえずり、虫 やカエル、ケモノたちの鳴き声が心地よ いBGMになる「UTAUTA /歌う田」が、 私の芸術の底流にあります。縄文の太古 から受け継がれる自然農を実践し、私の 芸術活動に大きな示唆を与えてくれる場 所になりました。大量消費文明にはない この豊かさをアートや音楽、デザインに 生かし、メッセージとして発信しています。自然と一体となる悠久が私の心の原 初であり、人も森羅万象とシンクロして いることを「縄文田んぼ」から学んでい ます。

「空なる器」

瞑想や禅に求める無とは、森羅万象に 溶け込み自然と一体になることです。自 我に満ちた心を「無」の状態にするの は、自然という宇宙と一体になること です。私のアーティストとしての活動 は、もともと自分自身を探し求める旅が 原点でした。東京芸術大学に進み、デ ザインを追求し始めた1970年代、ベト ナム戦争の閉塞感から社会は愛と自由を 求めていました。あらゆる事象が私にと ってアーティスティックに輝く時代でした。ジョン・レノンやドノバンに共感 し、音楽活動をしていました。1980年 代、アーティストがシーンをつくる社会 から、資本ありきのマーケティングが優 先される社会へ変化していきました。売 れるものが善という価値の変化です。マ ーケティングが先行し、巨大資本が世の 中を支配する社会へと変わり始めたの です。そんな社会システムの変化の中 でのデザインに疑問を持ち、自らのア イデンティティを探す旅を始めたので す。そこで見えてきたのが多様性溢れ るしなやかな文化や価値でした。突き 詰めて見えてきたことが縄文を源とす る自然と無二一体の精神性「空なる器」 の存在です。私のデザインは「空なる 器」を表現することです。「空なる器」は システムに捉われない自由の器なのです。

UTAUTA /歌う田

世界を巡り、40年前からこの葉山で 創作活動を始めました。「空なる器」を いかに表現していくのか試行錯誤の繰り 返しです。人の心の根源に響く民族楽器 を通した音楽活動を行うことや縄文田ん ぼでの作業で手がかりが見えてきました。 昨年9月に映画「UTAUTA /歌う田」 が完成し、私のモチーフがひとつの映像 というカタチになりました。

私の田んぼは、自然界と常にシンクロ しています。冬に水田を水で満たし、ま ったく耕さず微生物の力で栄養分を補っ て、湿地植物である稲の潜在力を引き出 して丈夫な稲に育てる縄文時代の田んぼ なのです。稲本来が沼の生態の一部にな るので、稲も丈夫になり手がかからない。 ひとりで年間20日間の手間で夫婦分の収穫ができます。大量消費社会の生産 性重視の農業にはない、健やかな水田は 現代社会の矛盾を問いかけてくれました。

個性こそ財産、多様性の時代へ

「INORI 祈り」のPVから

コロナがもたらした矛盾は、これから 数年で社会を一変させるのではないでし ょうか。100年前ペストが契機となった ルネサンス運動のように、大きな社会変 革がやってくるのではと思います。大量 消費社会で見失った個のアイデンティテ ィ。規格外の人がはじかれる社会から、 個人を敬い尊重し合う社会が訪れるので はと思います。中央集権的な管理社会か ら多様な価値観のあふれる社会です。新 作のCD「INORI 祈り」はコロナの外出 自粛の時期に書き上げたものです。私た ちが自然に抱く畏怖の念やふとした瞬間 に感じることのある法則や力のようなも のや縄文性を表現しています。

サロン & ギャラリー 明風

●所在地 〒240-0112 三浦郡葉山町堀内810

●連絡先 048-876-2205 

*「明風」は一般公開しているわけではないのでご配慮ください。

 

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