和風レストラン末廣 (館山市)
時間が止まった昭和のノスタルジックレストラン
国道127号線を南下して館山市内に入り、交差する128号線を鴨川方面に曲がりほど近くに「cafeレストラン末廣」がある。外観は鉢植えの植木に囲まれ、見事なまでに地味な田舎のレストランだ。しかし、扉を開けた瞬間、想像もできないような時空に投げ出されタイムスリップしてしまう。昭和レトロの輝かしいお宝が、この館山の田舎で光り輝き、圧倒的な存在感を放っている。私たち昭和世代にとってそこはまさに青春であり、このアナログな空間が落ち着くのだ。
店内は静かなジャズが流れている。そして、悠久の時を刻む柱時計がボーンボーンと懐かしい時を告げてくれる。「むむむむ、ここはただのレストランではない」と血が一気に引いてめまいを覚えるのだった。
アンティークグッズに囲まれ、少年の心に戻ったぼくを、仲睦まじい美人の奥様と気さくなマスターが笑顔で迎えてくれた。ここ末廣のマスターのこだわりはサイフォン式珈琲だ。サイフォンは手間がかかり、今はあまり普及してないが、50年前は、最先端の珈琲抽出方式だったのだ。ドリップと違い、アルコールランプの炎に温められ、お湯が上がっていく様は神秘な感動さえ覚える。さらに珈琲の粉が混ざり合い、下がっていく様は官能さえおぼえるのだ。とってもロマンチックな時が流れる抽出方法だ。ミステリアスなマジックを見るようなときめきと神秘性が最高の雰囲気を醸すひととき。50年前、初任給の9千円を銀座のデパートで巡りあった3500円のサイフォン器具につぎ込み、以来サイフォンの魅力にはまってしまったマスター。給料の三分の一で購入したサイフォンで淹れる珈琲は、さぞかし美味かったに違いない。淹れたてのサイフォン珈琲は、しっかりとしたボディ感があり、深いコクとアロマを奏でてくれる。カップも開店当時製造のノリタケというこだわりようだ。豆も大和屋(群馬県高崎市)の炭焼き珈琲を40年以上仕入れ、伝統の味を守っている。
メニューの一番人気は、クリームチーズコロッケ定食。揚げたてのコロッケは無骨な四角形だが、サックリトローリ、クリーミーで香り高くホッペの緊張もほどけるスイーツではと思える逸品である。そうなれば、気になるのは裏メニューだ。大分県から来店されたお客様のオーダーで作ったボルガライス。「ボルガライスってなんだ!」思わずマスターに食い下がってしまう。プリプリのエビを隠し味に使ったチキンライスの上にフワフワのオムレツ、さらに揚げたてのトンカツがその上に…。仕上げに自家製ドミグラスソースをかけて出来上がりのまさに「オトナのためのお子様ランチ」。「忙しい時には出せませんが、これが昭和の贅沢なのです」とマスターが控えめに語ってくれる。締めは館山産イチゴのフレッシュジュース。上品な甘味と酸味が交錯し、絶妙な味わいだった。
パイプを燻らせて、ゆらりと上る煙に窓からの西日が当たり、しばし時が止まる。マスター曰く「古い物も大切に、思いを込めて愛情込めて」と談笑。外に出ると夕焼けが空を染め、そしてマスターの愛車の真っ赤なスバル360が輝いていた。昭和レトロを楽しむならこちらへ。徹底したマスターの人生哲学に脱帽。「時代に流されず、もっとシンプルに本物を見極めよう」とマスターが無言で伝えてくれていた。
昭和レトロのレストラン
店名 和風レストラン 末廣(すえひろ)
住所 〒294-0014 千葉県館山市山本3番地
電話0470-22-8052
1972年創業3月(49年になる老舗)
・水曜定休日
・営業時間 11時~20時
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