2021-09-05

旅にスパイス③ インタビュー 林良樹(アーティスト・いのちの彫刻家/鴨川市)

鴨川の大地に刻むいのちの彫刻

サスティナブルという言葉が注目されています。新型コロナウイルスの出現は現代社会がもたらした環境破壊が原因だったという仮説から、持続可能というサスティナブルな暮らしに注目が集まっています。

房総半島の中央、鴨川市の山間部で、世界が注目する持続可能な循環型社会への試みが、企業や大学の研究室を巻き込みスタートしました。

アーティストの林良樹さんの描く「小さな地球プロジェクト」は、私たちに豊かさの本質を問いかけます。物質的な豊かさよりも自然に敬意をはらい、助け合って生きてきた里山の悠久の暮らしが再び脚光を浴びています。

小さな地球プロジェクト。それは人間復興を謳う

陽光で輝く天水棚田の美しさ、黄金色に輝く収穫の達成感は、まさに名画を見たあの感動に通じます。悠久の風の流れる里山に身を置くだけで、セラピーのような効果があります。社会の歯車から自然の歯車に身を置く心地よさを味わうことで、人間らしい優しさを取り戻し、助け合って生きることの大切さを体感します。生かされて暮らすことから生きることに目覚めた時、人は皆アーティストになり、生きることがまさに芸術なのだと気づかされます。小さな地球プロジェクトは、里山暮らしを通して、真の美しさや生命の本質、人間らしさとは何かを学び、企業や大学の研修などにも広く活用され、社会へ広がっています。

ビジョン・クエストの旅の果てに

小さな地球プロジェクトは永遠の彫刻。これはその設計図

私が釜沼集落にたどり着いたのは1999年のことでした。それまでは消費社会のストレスフルな暮らしに馴染めずに、世界放浪を繰り返し、自分の居場所を探していました。米国先住民のスー族が暮らす村で出会った世界観や、イタリアで自然農を実践する農家の素晴らしさに出会うなど、人間らしく生きる人々の美しさに感動し、ビジョンクエストの旅を続けていました。

ある時、屋久島で出会った女性に、天水棚田、炭焼き小屋、みかん畑、茅葺の古民家など、日本の原風景が残る美しい農村が千葉の鴨川にあると聞き訪ねてみたのでした。私の生まれ育った千葉県木更津市からわずか1時間、そして首都圏エリアから2時間のこの場所に自分が探し求めていた奇跡の彫刻が残っていたのです。

高齢化で疲弊する農村でしたが、ここに求めていた人間らしい暮らしがあることを直感、すぐに移住を決意しました。以来「NPO法人うず」という形で、過疎化や限界集落など日本のかかえる問題を地域の課題として、都会と田舎をつなげる活動や都市住民や企業、大学、団体などとともに、地縁血縁を超えたみんなのふるさとづくりを始めたのです。

そして2年前の台風被災後に売りに出された里山付きの古民家や空き家を引き継ぎ、日本の原風景を個人の所有ではなくコモンズとして共有し、未来の世代に手渡すために「一般社団法人小さな地球」設立しました。分断されていた事物の関係性を取り戻し、人と人、人と自然、都会と田舎をつなぎ、里山をいのちの彫刻として参加型で創造するプロジェクトをスタートさせました。そこは行き詰る現代社会のシェルターでもあり、過去と未来をつなぐ架け橋ともなり、コロナ禍の時代に大きな注目の的になっているようです。

永遠を刻むいのちの彫刻

小さな地球プロジェクトは、美しい日本の原風景を「舟」に見立て、持続可能な共生社会という未来へ向かう永遠の航海を始めました。それはライフスタイル、農と食、デザイン、建築、文化、コミュニティ、自然エネルギー、教育、超高齢化社会の福祉、医療、働き方、貨幣、都市と地方の共生関係、政治、経済、宗教など、社会のあらゆる事象を持続可能につなぎ合わせた現代版の里山総合文化事業です。

私たちは誰もがアーティストです。自分自身の”LIFE(生命・生活・人生)”を使って、地球にいのちの彫刻を創造する彫刻家なのです。アントニオ・ガウディが企てたサクラダファミリアのように、いのちの彫刻にも終わりがありません。人間も雪の結晶のようにひとつとして同じものがなく、それぞれが美しく愛おしい。みな違うからこその役割があり、国籍、職業、世代を超え、知恵と力を合わせ、多くの人と共に地球規模の生命芸術を創り上げてきました。

釜沼の自然に立っていただけたら、そのヴァイブレーションを感じていただけるはずです。日本の里山文化の知恵と精神性が深く染み込む場で、私たちのクリエイティビティの力で時代を乗り越えていきたいと思っています。それは初めは小さな渦かもしれませんが、やがて大きな大きな渦に広がり、持続可能で平和な地球を創造することへつながるでしょう。

日本の里山文化の象徴に茅葺の屋根がある

里人からアーティストへ

里山は常にクリエイティブ。里の恩恵が人々に笑顔を与える

小さな地球プロジェクトは、里山全体にサスティナブルなビレッジを共創する参加型のアートプロジェクトです。古民家ゆうきづかでは、「棚田オーナー制度」や「無印良品鴨川里山トラスト」「自然酒の会」など天水棚田での稲作を通して自然との感動的な交感を体験していただいています。また、古民家したさんでは、多彩なイベントやお祭り、マーケットやカフェ、ギャラリーやライヴコンサート、農産物の加工や販売、ツーリズムやリモートワーク、そして「森のようちえん」などの活動を行っています。いのちの彫刻である里山暮らしも体験していただきたいので、宿泊施設の整備などもさらに充実させていきます。

様々な団体が視察に訪れている鴨川の小さな地球プロジェクト

小さな地球プロジェクトの主役は、参加する皆さん一人ひとりです。社会の歯車から抜け出し、本来の自然界の一員となって持続可能な地球を創造するアーティストとして人間らしさを取り戻す機会になればと思います。まずは「週末里人」となってみてはいかがでしょうか。活動は以下のサイトからご覧にもなれます。

小さな地球ホームページ https://small-earth.org

 林良樹 Yoshiki Hayashi 1968年、千葉県生まれ。いのちの芸術家。NPO法人うず理事長・一般社団法人小さな地球代表理事。様々な職業を経験した後、アメリカ、アジア、ヨーロッパを放浪。1999年、鴨川の古民家に移住。土地の暮らしに溶け込みながら、「美しい村が美しい地球を創る」をテーマに、釜沼北棚田オーナー制、無印良品 鴨川里山トラスト、釜沼木炭生産組合、地域通貨あわマネーなど、人と人、人と自然、都会と田舎をつなぐ多様な活動を行っている。その活動は、芸術、農、教育、自然エネルギー、エコビレッジと幅広く、そのすべてが「持続可能な社会づくり」へとつながる。近年では、企業(無印良品・博報堂)、大学(千葉大学・東京工業大学、自治体(鴨川市)など、組織の垣根を越えた連携も進めている。著書に『スマイル・レボリューション~3・11から持続可能な地域社会へ』(加藤登紀子・林良樹 白水社)がある。

 ARTISTIC BAY BREEZE Vol.3 20210610

 

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